アルカンヘル





アルカンヘルを久方ぶりに弾いた。


じつはわたしはアルカンヘルをあまり弾いていない。
機会はいくらでもあった。
オーナーの細川さんからも見るべきだと弾くことを勧められていた。
しかし、弾けば必ず引っ張られる。
自分のイメージで楽器を作りたいと考え、ずっと固辞していた。

弾いてみて感じたのは輪郭のはっきりとした緻密さ。
繊細ではなく緻密。
以前、岩のような圧倒的な剛性感に感嘆したことを覚えているが、なるほどこのように進化していた。
細部まで緻密だから正確に絵がかけると言ったら分かってもらえるだろうか?
緻密ではあるけれど華奢ではない。これは間違いなくホールで通る音。
これだと音楽の求めるあらゆる表現が可能になる。
その無限のポテンシャルを再確認した。
トーレスは夢見るような魅力ある音色だが、このような多彩な表現力・正確さは持っていない。

わたしはアルカンヘルはトーレスの生まれ変わりではないかと思ったことがある。
トーレスの風貌が少し神経質である点もアルカンヘルと重なる。
そして、なにより構造である。
ギターで何より重要なのは中央の軸である。
中央の軸をいかに生成するか、これが製作の最優先の課題である。
しかし、この中央の軸の生成に焦点を絞った製作家は、わたしの知り得る限りトーレスとアルカンヘルだけなのだ。(ギターの木目は縦に走っている。したがって振動は縦に伝搬される。この縦の剛性、とりわけ中央の縦剛性が何より重要となる。)

アルカンへルは、ギターは撥弦楽器であるという基本に忠実である。
ギターの音の源泉は衝撃音である。それには固さが基本になくてはならない。
トーレスはロマン主義の夢見るような魅力溢るる楽器だが、アルカンへルはギターだ。
ザ・ギターである。ただ、少しスペイン風味を効かしてある。

細川氏の助言により、このスペイン風味を廃した楽器を作ることができた。
わたしが躊躇せずアルカンヘルを手に取ることができたのは、それが理由である。
最後の最後に最高の助言をしていただいた細川鋼一氏には感謝しかない。
あちらで思うがままに音楽を奏でて欲しい!

                                                                    
                                                                              Muchisimas Gracias Eh!